フリープランナーの競業避止義務|契約終了後の「他社と契約してはいけない」という誓約書は、どこまで有効なのか?

こんにちは、アナロジーの市川(@analogy_ichitk)です。
当社で運営している結婚式場とウェディングプランナー経験者の業務委託マッチングサービス「Wedding Me Works」での事例などをもとに、フリープランナーが契約終了時に求められる競業避止の誓約書についてお送りします。
他社の同業サービスを経験してから Wedding Me Works への登録を検討している方と話していると、「前の会社から、同じような会社とは2年間契約しないという誓約書を書かされているんです」のような声を聞くことがあります。本人は動きたいのに、そのサインが引っかかって動けない。私自身は誓約書の原本を見たことがなく、あくまで会話の中で聞く範囲の話ですが、一度や二度ではないので、どう考えればよいのかを一度整理しておこうと思います。
この記事は、公的なガイドラインをもとにした一般的な整理と、プラットフォーム型のマッチングサービスを運営する立場からの意見です。個別の契約の有効性は、条文や取引の実態によって異なります。
契約終了時に求められる「他の仲介会社とは契約しない」という誓約書とは?
今回ケースとして取り上げるのは、式場が仲介会社に業務を委託し、仲介会社が個人のプランナーに再委託する、二段階の業務委託のパターンです。プランナーが担うのは新規接客や打合せ、結婚式の施行担当で、契約の相手は仲介会社、働く場所は式場という形になります。契約相手と現場の会場が一致しないのはこの業界ではよくある構造で、契約ルートごとの違いはフリープランナーが登録できる支援サービスの比較で整理しています。
終了時に初めて誓約書が出てくる場合と、開始時の契約書に条項があって終了時に改めて確認書を書かされる場合の両方があり、内容は「契約終了後に同様の仲介会社と一定期間契約しないことを強制する」が主で、「実際に稼働していた式場と直接契約しない」が併記されていることもあるようです。期間は様々ですが1〜2年が多い印象です。
それが開始時の契約で合意していた義務の確認なのか、終了時に初めて追加された義務なのか、という点は確認が必要ですが、どちらにしても、誓約書自体が有効か無効かを判断する論点はその制限がどこまで及ぶのか、その範囲に理由があるのか、になります。
なぜ仲介会社は「他社とは契約しない」という誓約書を書かせるのか
仲介会社の商売は、式場に営業をかけて条件を交渉し、受けた案件をプランナーに回して、その差額や手数料で成り立っています。式場を開拓するのも、条件をまとめるのも、現場に入れるように段取りするのも仲介会社なので、プランナーが抜けたあとに「自分たちがつないだ式場に直接入られる」「持っていた情報を他で使われる」ことになると、商売の土台が崩れます。誓約書を書かせる動機はここにあり、動機そのものはおかしなものではありません。
ただ、ざっくりと「他社と契約しない」と言っても、仲介会社が禁止したいことは実際には4種類に分かれます。どれを禁止しているのかで、プランナー側が受ける影響の大きさがまったく違います。
①顧客情報や非公開の資料を持ち出して使われたくない
新郎新婦の個人情報、式場との取引条件、社内の資料を持ち出して他で使われることは、どの会社も困ります。これは「他社で働くな」という話ではなく「情報を持ち出すな」という話で、守秘義務は契約が終わっても続くのが前提です。他社で働けることと、前の会社の情報を自由に使えることは別物で、ここは混同しないほうがよい点です。
②紹介した式場と直接契約されたくない
仲介会社が営業して開拓した式場に、プランナーが仲介を外して直接入れば、仲介会社の取り分はゼロになります。いわゆる中抜きの防止で、禁止したい理由ははっきりしています。それでも、どの式場を・どの業務について・いつまで禁止するのか、その式場に入った経緯はどうだったのかで、合理性は変わります。
③同じ式場に、別の仲介会社を通して入られたくない
自分たちが取引している式場に、別の仲介会社経由で同じプランナーが入ると、取引を横取りされた形になります。ただし、担当していた案件をそのまま別ルートに切り替えるのと、同じ式場が別の案件を別のルートで発注しているのとでは意味が違い、「同じ式場」というだけで一律に判断できるものではありません。
④別の式場であっても、他の仲介会社で働いてほしくない
上の3つは「何を失うか」を説明できますが、この4つ目だけは違います。別の式場で、別の新郎新婦を担当する仕事は、元の仲介会社の式場にも情報にも関係がありません。それでも禁止したい理由があるとすれば、人材が他社に移ること自体を損だと考えているからです。情報を持ち出すこと、案件を横取りすることと、他社で普通に仕事をすることは別物なのに、この4つを同じ誓約書で一括りにしているところに、冒頭の困惑の正体があります。

誓約書はサインしなければいけないのか? サインしたら必ず有効なのか?
結論から書くと、終了時に初めて出された誓約書は新しい約束なので、その場でサインしなければならない義務はありません。内容を持ち帰って確認し、分からない点を質問し、範囲を狭めてほしいと求めることもできます。稼働開始時の契約書にすでに条項がある場合は、その約束は契約時に済んでいるので、確認書を断っても条項そのものは残ります。そしてサインしたとしても、書いてあることがすべてそのまま有効になるわけではありません。ここが、法律の知識がないと一番分かりにくいところだと思います。
法律上のルールは大きく2つあります。1つ目は契約そのものの効力の話で、仕事をする自由を必要以上に縛る約束は、民法90条の「公序良俗に反する」として、全部または一部が無効と判断されることがあります。2つ目は、そういう条件を押しつける行為の話で、立場の強い発注者が、必要な範囲を超えた制限を一方的に課し、相手が断れない状況にあれば、独占禁止法の「優越的地位の濫用」として問題になり得ます。前者は「その約束に効力があるか」、後者は「そういう条件を出すこと自体が許されるか」で、別のルールです。
では「必要な範囲」とは何か。公正取引委員会などが出しているフリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドラインは、発注者が必要な範囲でこうした義務を設けること自体は問題ないとしたうえで、範囲を超えているかどうかは、義務の内容や期間が目的に対して重すぎないか、本人の不利益、補償の有無、他の人との条件の差などを総合して判断する、と書いています。読者向けに言い換えると、見るのは次の7つです。
- 目的: 仲介会社は何を失わないために禁止しているのか
- 関係: 自分が接していた情報や式場と、禁止される仕事にどんな関係があるか
- 範囲: 対象の会社・式場・顧客・地域・業務が必要な範囲に限られているか
- 期間: なぜその長さが必要なのか
- 不利益: 自分の仕事と収入の機会をどの程度奪うか
- 補償: 制限の見返りに補償や報酬の上乗せがあるか
- 協議: 内容の説明を受け、検討する時間があったか
補償がないから自動的に無効、補償があれば必ず有効、という単純な関係ではありません。それでも、聞こえてくる話では補償や協議があったというものはなく、代わりに「破ったらどうなるかわかるよね」「この業界では働けなくなる」といった言葉で念を押されたという話を聞きます。少なくとも聞く範囲では、7つのうち補償・協議・範囲の3つが、合理性を疑う方向に振れていることになります。同じガイドラインには、仲介会社であっても受けた業務をフリーランスに再委託していれば実質的な発注者として同じ考え方が当てはまる、とも書かれているので、「式場と直接契約していない仲介会社だから別」という話にもなりません。
もう1つ、「同様の仲介会社」がどこまでを指すのか分からないまま、怖くて仕事を断る、という状態そのものも問題視されています。公正取引委員会が令和6年4月の資料で紹介している検討会の報告書は、範囲が不明確な競業避止義務は他の発注者との取引を萎縮させるので望ましくない、としています。なお、会社員の退職時の競業避止には裁判例の蓄積がありますが、雇用と業務委託では前提が違うので、「2年なら有効」という結論をそのまま持ち込むことはできません。サインしたから必ず有効とも言えず、無効の可能性があるから無視してよいとも言えない。これがこの論点の正直なところです。
ブライダルの業務委託の仕事は、誓約書で縛れるものなのか
ここからは運営者としての意見です。先述の7つの確認点を、プランナーが実際にやっている仕事に当てはめてみます。
新規接客の仕事は、式場の商品とプランを、来館した新郎新婦に提案して成約につなげることです。使っているのは本人の提案力と接客経験で、式場のプランや価格は新郎新婦に配る資料に載っている情報です。新郎新婦の個人情報は式場や仲介会社のシステムで管理されていて、接客が終われば本人の手元に残るものはほとんどありません。施行担当の仕事も同じで、打合せから当日までの進行管理は本人の経験で回しますが、新郎新婦の情報は式場の管理下にあり、結婚式が終われば案件は終わります。式場との取引条件を交渉しているのは仲介会社なので、プランナー自身が非公開の条件を握っているわけでもありません。
そうすると、仲介会社が失いたくないものを守る方法は、もっと小さい制限で足ります。情報については、契約終了時にシステムへのアクセスを止め、手元のデータを返却・削除させ、目的外の利用を禁じれば大半は済みます。記憶した情報や端末に残った連絡先まで考えれば秘密保持義務そのものは必要ですが、それは「他社で働くな」とは別の話です。進行中の案件を持っていかれるのが心配なら、対象の案件と期間を限定した取り決めで対応できます。紹介した式場との直接契約を防ぎたいなら、その式場に限って禁止すれば目的は果たせます。
ここまで整理すると、別の会社を通じて、別の式場で、別の新郎新婦を担当することまで、補償もなく1〜2年禁じる理由は、接客・施行の仕事内容からは出てきません。残る理由は「人材が他社でも働くこと」そのものを損と見ていることで、それは法律が認めている「必要な範囲」とは言いがたい、というのが運営者としての見立てです。個別の文言や経緯で結論は変わるので断定はしませんが、こうした全般禁止の誓約書は、有効とは言いがたいことが多いのではないかと考えています。
誓約書を出されたら、どうすればいいのか
法的な結論は個別の事情で変わるので、ここでは実際に誓約書を前にしたときの動き方を順番に書いておきます。
- その場でサインしない: 持ち帰って読む。急かされても「確認してから返事をします」でよい
- 禁止の範囲を読む: 何を、どこで、誰との間で、いつまで禁止されるのか。「同様の仲介会社」の定義が書かれているか
- 開始時の契約書と見比べる: 終了時の誓約書で、義務が追加・変更されていないか。契約書の条項の見方は業務委託契約書の確認ポイントにまとめています
- 理由と補償を書面で聞く: 何のための制限か、見返りはあるのか。質問した記録を残すこと自体が、「協議の機会があったか」という確認点を自分の側に残します
- 記録をそろえて相談する: 契約書、誓約書、口頭で言われた内容のメモを持って専門家に相談する。相談先はフリーランス新法の記事で紹介しています
すでにサインしてしまった人も、必ず有効とは限らないことは上に書いたとおりです。ただし、自分だけで「無効だ」と決めて無視することは勧めません。記録をそろえて相談するところまでは同じです。
Wedding Me Worksの方針と、マッチングサービスとしての考え
Wedding Me Works は、式場から受けた業務をプランナーに再委託する仲介会社ではなく、式場とプランナーが直接業務委託契約を結ぶプラットフォーム型のマッチングサービスです(業務委託案件の探し方の比較)。そのうえで、プランナーが他の会社や同種のサービスを利用したり契約したりすることに制限を設けておらず、同時並行で利用することも認めています。
制限がまったく存在しないわけではなく、式場の側から「同じエリア内の他会場と並行して契約する場合は契約できない」と条件が付くことはまれにあります。ただしこれは契約期間中の、そのエリアの競合会場に限った制限で、式場が失いたくないものと禁止する範囲が対応しています。契約が終わった後に、無関係な式場の仕事まで広く禁じる誓約書とは性質が違います。
マッチングサービスを運営する立場として思うのは、失いたくないものがあるなら、それを守るためのルールを明確にして示すこと、そのうえでプランナーが仕事を選べることを尊重することの2つです。契約で縛って人を留めるのではなく、案件の質と条件の透明性、稼働を支える体制で選ばれ続ける。当社がすべて正しいと言うつもりはありませんが、少なくともそういう関係を目指したいと考えています。
まとめ
契約終了時の競業避止の誓約書について、押さえておきたいのは3つです。
- 仲介会社が何を失わないための禁止なのかを見る: 情報の持ち出し・紹介した式場との直接契約・同じ式場への別ルート参入なら理由は説明できる。別の式場の仕事まで禁じる理由は、仕事内容からは出てこない
- サインの有無だけで結論を出さない: 書かなければならない義務はなく、サインしても必ず有効とは限らない。ただし無効の可能性があっても無視はしない
- その場で決めず、記録をそろえて相談する: 持ち帰る・読む・書面で聞く・相談する、の順番で動く
仲介会社に失いたくないものがあること自体は否定しません。問いたいのは、それと釣り合わない範囲まで制限が及んでいないか、という一点です。誓約書を前に動けなくなっている方が、自分の契約を見直す手がかりになればと思います。
今回の記事ではあまりご紹介しませんでしたが、ウェディングプランナー経験者の業務委託案件での働き方に興味がある方、自分だったらどんな働き方ができるのかとお悩みの方は、ぜひお気軽にお問合せください。
Wedding Me Works は、結婚式場とウェディングプランナーを業務委託契約でつなぐマッチングプラットフォームです。ご関心に合わせて、それぞれの窓口をご用意しています。







