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2022/12/14

インボイス制度開始により大きな影響が予想される個人事業主やフリーランス…フリーのウェディングプランナーはどう対応すれば良い?

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2023年10月より、新しい消費税の納税方式であるインボイス制度が開始されます。

実は、インボイス制度により一番大きな影響を受けるのは「小規模事業者で消費税の申告や納税をする必要のなかった個人事業主やフリーランス」だといわれているのです。その理由や、個人事業主やフリーランスの立場である人たちが、インボイス制度にどう対応すべきかについて解説します。

 

インボイス制度により一番大きな影響を受けるのは小規模事業者

インボイス(適格請求書)とは、決められた様式に従って作成された「正確な消費税額を証明するための請求書」です。インボイスを必要とする消費税に関する制度の改正により各事業者の事務負担は増え、新しいソフトやシステム導入費用もかかる可能性があります。

制度の変更により事業者に多少の事務負担が生じるのは仕方ない部分もあるでしょう。

しかし、インボイス制度により一番大きな経済的影響を受けるのは、小規模事業者である個人事業主やフリーランスと考えられます。

小規模事業者である個人事業主やフリーランスの方は「消費税を申告納税する事業者への変更」という、事務費用負担増加にとどまらない大きな変更を迫られる可能性が高いのです。

そこで、まずはインボイス制度について簡単に紹介し、個人事業主やフリーランスにかかってくるであろう影響や負担について解説します。

インボイス制度とは?インボイス発行の重要性

インボイス制度とは、原則としてインボイスと呼ぶ正確な消費税額を証明する書類がない場合は仕入税額控除をできなくする制度です。

仕入税額控除とは、消費税納付額の計算上、売上消費税(売上に伴い受け取った消費税額)から仕入消費税(仕入等に伴い支払った消費税額)を差し引く計算過程を指します。

ざっくりいうと、消費税を納める買手の事業者は、インボイス制度開始後には取引の際に売手の事業者からインボイスの発行を受けて保存しなければ損をするように変わります。

そして、商品やサービスを提供し報酬を受け取る売手事業者がインボイスを発行するには、事前に税務署に申請し、インボイス発行事業者になっておく必要があります。

法律上は事業者にインボイス発行事業者になる義務はありません。

しかし、インボイスが必要な買手の事業者相手の取引を頻繁に行う売手の事業者は、事実上インボイス発行事業者となってインボイスの発行をせざるを得なくなるでしょう。

普通に考えれば、最終的には買手の事業者はインボイスを発行できない事業者との取引を選択しなくなっていくからです。

インボイス制度・課税事業者・免税事業者について、基本的な情報をより詳しくしりたい方はこちら
https://works.bridal-oshigoto.com/media/221208_01/

免税事業者はインボイスの発行ができない

本来、課税売上高(消費税の課税対象となる取引の売上高)が一定の金額以下の小規模な事業者については、消費税の申告納税の義務を免除する「免税事業者制度」がとられています。

免税事業者とは、基準期間(個人の場合は前々年の一年間、法人の場合は前々事業年度の一年間)の課税売上高が1,000万円以下の事業者です。

免税事業者に対し、基準期間の課税売上高が1,000万円を超える、消費税の申告納税義務がある事業者を課税事業者といいます。また、売上1,000万円以下であっても税務署への届出により、消費税の申告納税を行う課税事業者となれます。

仕入で支払う消費税が高額だと、課税事業者となって消費税の申告をすれば消費税が還付される場合(「仕入で支払った消費税額」>「売上で受け取った消費税額」の場合)もあり、課税事業者になるメリットも存在しえるため、自ら課税事業者になる判断も認められているのです。

そしてインボイスを発行するための重要な要件として、消費税についての申告を行う課税事業者でないと、インボイス発行事業者となってのインボイスの発行ができません。

よって、消費税を納める買手事業者からすると、インボイスを発行できない免税事業者との取引は今後ためらわれるようになると予想されます。

免税事業者のままではインボイスを発行できない不都合が、小規模事業者がインボイス制度によって大きな厳しい影響を受ける理由となるのです。

個人事業主やフリーランスは大部分が免税事業者

個人事業主やフリーランスは、大部分の方が小規模に事業を行っている売上が1,000万円以下の事業者であり「免税事業者」となっている現状があります。

そのままではインボイスを発行できない免税事業者である個人事業主やフリーランスは

  1. インボイスを発行できない免税事業者の立場のまま事業を続けるか
  2. 課税事業者かつインボイス発行事業者となりインボイスを発行できるように変更するか

ふたつのうち、どちらかの選択を迫られるでしょう。

免税事業者が受ける厳しい影響と苦しい選択

免税事業者を続けた場合のデメリットとして、各事業者の置かれる業界によっては、仕事を同業の課税事業者に奪われてしまうリスク、実質的に金銭負担増となる買手事業者から報酬の値下げを要求されるリスクが高い点が考えられます。

負担が少ないのであれば、課税事業者かつインボイス発行事業者となってインボイスを発行し、変わらず事業を続けていきたいところです。

しかし、課税事業者になると、今まで不要であった消費税を別計算して申告し納税する事務負担が生まれますし、国に消費税を納付する分の収入減少が確定してしまいます。

単純に考えれば、売上の約10%を失うのです。零細で事業を続けてきた免税事業者は、おいそれと課税事業者になる選択はできないでしょう。

インボイス制度開始により、相当数の免税事業者が廃業に追い込まれるかもしれないとも言われているのです。

 

免税事業者である個人事業主やフリーランスはインボイス制度にどう対応する?

ここからは、免税事業者である個人事業主やフリーランスの、おすすめのインボイス制度への対応の仕方・インボイス制度開始による負担を減らすため有効な制度について紹介します。

100%消費者向け取引、100%非課税取引の事業者の場合、免税事業者を続けてよい

商品やサービスを提供する取引相手である買手が、消費者しかいない場合には、買手からインボイスを求められる可能性はありません。

消費者は、事業者のように消費税の申告納税をしないため、インボイスが必要になる場面がないからです。

子供向けの学習塾や理容室・マッサージ店などは、事業者相手の取引が存在しない可能性がありますので、インボイスを発行できない免税事業者を続けて大丈夫な可能性は高いです。

また、扱う商品やサービスが消費税非課税取引しかない場合も、インボイスが不要となり、免税事業者のままでも影響はありません。

居住用家屋の賃料など、政策的観点から消費税がかからないとされている非課税取引もあり、非課税取引による業務しかない場合には、インボイスによる消費税額の証明が必要とならず、免税事業者を続けても問題にならないのです。

参照:国税庁Webサイト 非課税となる取引
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6201.htm

もっとも、少しは事業者との取引や課税取引がある場合も多く、100%消費者向けの取引もしくは100%非課税取引の個人事業主やフリーランスは、かなり限定されるでしょう。

簡易課税制度を利用しつつインボイス登録事業者となる対応

課税事業者かつインボイス発行事業者となりながらも、なるべく事業者の負担を減らす方法である、簡易課税制度の利用について解説します。

簡易課税制度とは

消費税課税事業者は、原則として仕入・経費で支払った消費税額を細かく分類して集計しながら(インボイスの保管も今後必要となる)、基準期間の仕入消費税額を計算し仕入税額控除により国への納付消費税額を算出する必要があります。この原則となる課税方法が「原則課税」です。

一方、「原則課税」の細かな計算は小規模事業者にとって負担が大きいため、控除する仕入消費税の金額を概算でよいとする「簡易課税制度」という特例措置があります。

「簡易課税制度」は、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の課税事業者について、売上消費税に業種ごとの「みなし仕入率」を掛けた金額を、仕入消費税とみなして仕入税額控除してよいとする制度です。

原則課税 納付消費税額=売上消費税額 - 細かな分類計算で得られた仕入消費税額
簡易課税 納付消費税額=売上消費税額 -(売上消費税額×業種ごとのみなし仕入率)

主な業種の、みなし仕入率は以下の表のとおりです。

区分 業種 みなし仕入率
第一種 卸売業 90%
第二種 小売業 80%
第三種 製造業、建設業 70%
第四種 飲食業、その他の事業 60%
第五種 サービス業 50%
第六種 不動産業 40%

例えば、サービス業で売上500万円、売上消費税が50万円の場合を考えてみましょう。

簡易課税の場合、サービス業のみなし仕入れ率は50%ですので、控除する仕入消費税は25万円とみなされ、国への納付消費税額は、50-25=25万円となります。

仕入で支払った消費税額の細かな分類や計算は不要になりますし、実際には仕入で25万円以下しか消費税を支払っていない場合には、消費税納付額の軽減が実現するのが分かります。

メリットが大きい簡易課税制度を利用しよう

まとめると、簡易課税制度は、

  1. 仕入消費税額の細かな集計計算やインボイス保管をしなくてよくなり、手間が軽減する
  2. 場合によっては、消費税納付額を大幅に軽減する効果がある

という大きな二つのメリットがあります。

デメリットとしては、制度利用の開始・終了には届出が必要のうえ、一度簡易課税を選択した場合には少なくとも2年間は続けなければならない点、すぐに原則課税には戻れないため想定以上の仕入消費税を支払った場合に損をする可能性もある点があげられます。

ともかく、簡易課税制度は小規模事業者にとって非常に利便性の高い制度です。

免税事業者のように消費税納付額がゼロになる訳ではないですが、少しでも納付額を下げれる可能性がありますから、簡易課税制度の利用を検討するのはおすすめです。

しばらく免税事業者を続けて様子見をする対応

インボイスを発行できなくても事業への影響がそこまで深刻にならないと判断できる場合には、しばらく免税事業者を続けて様子を見るのもよいでしょう。

消費税の申告納税が不要である免税事業者のメリットは大きいため、免税事業者のまま問題なく事業を続けられるならば、それに越したことはありません。

仕事の専門性が高い場合、ライバルの事業者が少ない場合には、免税事業者を続けてインボイスを発行しなくとも、影響なく仕事を続けられる可能性はあります。

事業者相手の取引はごく少数であり、万一事業者相手の仕事が失われても持ちこたえられる場合にも、しばらく免税事業者を続けてよいかもしれません。

また、インボイス制度には経過措置もあり、6年間はインボイスがない場合の買手事業者の負担が軽減されますので、その間は事業への影響は少ないとみて免税事業者を続けるのも一つの方法です。

参照:財務省資料 インボイス制度実施に当たっての経過措置について
https://www.nichizeiren.or.jp/wp-content/uploads/invoice/invoice15b.pdf

いずれにせよ、免税事業者を続けるのであれば、インボイス制度開始後の情勢変化に注視しつつ、慎重に対応していく必要があるでしょう。

この記事を書いたライター

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