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2022/12/08

インボイス制度の基本を知ってイメージを掴もう!個人事業主やフリーランスのウェディングプランナーへの影響は?取引先となる事業者への影響は?

インボイスとは、一言でいうと「適格請求書と呼ばれる消費税額の証明書」。インボイス制度の導入によって、消費税を国に納める事業者には新しいルールが追加され、明確に消費税を納めるための制度方式に変更されるのです。

フリーランスの方や業務委託で仕事を受けている方の場合は、インボイス(適格請求書)とは何か、ざっくりした消費税の納税額計算方法やインボイスが無い場合の不都合をイメージできれば、インボイス制度の基本の理解として十分でしょう。

インボイス制度の経過措置や、インボイスによる個人事業主、フリーランスその他事業者への影響を含めて解説します。

 

適格請求書とインボイス制度とは?

国税庁が公表している手引きによると、インボイスは「適格請求書」であり、インボイス制度とは、「適格請求書保存方式」(新しい仕入税額控除の方式)であるとされています。

適格とは何を意味し、適格請求書を何のために保存しなければならないのか、イメージしやすい言葉で解説していきます。

参照:国税庁による「適格請求書保存方式(インボイス制度)の手引き」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/pdf/0022009-090.pdf

「適格請求書(インボイス)」とは

「適格請求書(インボイス)」とは、「決められた様式に従って作成された、受け渡しを行った正確な消費税額を証明する書類」です。インボイス制度施行後は、消費税額の証明をする一定の場面において、特定の証明書である「適格請求書」が必要となってくるのです。

制度で定められた請求書の様式では、日付や取引内容、消費税率や消費税の金額を記載したうえ、インボイス発行事業者が登録番号等を記載しなければいけません。

今までも、請求金額の内訳として消費税率や消費税の金額を請求書に記載し、日付や取引内容も標記するのが通常でした。現在と大きく変わるのは、インボイス発行事業者が事業者名と登録番号を記載する点といえるでしょう。

そして、商品やサービスを提供して取引の報酬を請求する「売手」が適格請求書を発行するには、事前に税務署に適格請求書発行事業者として登録を受け、インボイス発行事業者となる必要があります。

インボイス発行事業者とは

消費税の課税事業者は、税務署への登録申請により、インボイス発行事業者になれます。「事業者」とは、会社などの「法人」と、サラリーマンのように誰かに雇われるのではなく自ら事業を行う「個人事業主」を指します。

それほど難しい申請ではなく、基本的には登録申請用紙一枚の提出で登録可能です。登録が済むと、納税地を所轄する税務署長から事業者に登録番号が通知されます。消費税の課税事業者でなければ、インボイス発行事業者になれない点は重要です。

【課税事業者】 課税売上高(消費税が課税される売上高)が基準期間(前々年の一年間)で1,000万円を超える法人や個人事業主は、申告を経て消費税を納める義務がある課税事業者となります。
【免税事業者】 法人や個人事業主の基準期間の課税売上高が1000万円以下の場合、原則として消費税を納める義務のない免税事業者となります。

免税事業者と益税

今までは、年間売上が1,000万円以下である免税事業者は消費税を納める義務はなく、「取引先から消費税を受け取りつつ売上として計上し、消費税は納税しない」益税が認められてきました。

「消費者が事業者に支払った消費税の一部が納税されずに事業者の利益となる状態」を益税と呼びます。

なお、年間売上が1,000万円以下であり、消費税を納めなくて良い免税事業者になれる場合であっても、税務署への申請届出により課税事業者にもなれるのです。

世間には多くの免税事業者がいますが、インボイス制度の開始により二択の判断を迫られる時代になると言われています。

  1. 免税事業者であり続けるか
  2. 課税事業者への変更を選択してインボイス発行事業者になるか

課税事業者になると、消費税を別計算で帳簿管理する必要もでてきますし、免税事業者の立場によって発生する益税も当然なくなりますので、負担増加は避けられません。

つまるところ「インボイス制度」とは

「インボイス制度」は、申告による国への消費税納税の場面において、原則としてインボイスを保存しておかなければ消費税の仕入税額控除ができない方式へ変更する制度なのです。

「仕入税額控除」は、税金計算方法の一部であり、仕入で支払った消費税分を差し引いて「事業者が国に納める消費税額を下げる計算」と説明するとイメージしやすいでしょう。

大まかにいうと、「売上として自分が取引先から受け取った消費税の金額-仕入等に伴い自分が支払った消費税の金額」の計算により得られた金額について、事業者は国に消費税を納めています。

この消費税納税額の計算過程において、原則として適格請求書(インボイス)がない場合には自分が支払った消費税額のマイナス(控除)をできなくする制度がインボイス制度です。

消費税課税事業者は、損をしないために売手からインボイスを受け取って保存していく必要があります。単純に必要な書類や作業が増えてしまうのです。

一般消費者、会社員はインボイス制度とほぼ無関係

ちなみに、商品やサービスを消費する個人である一般消費者は、各取引の対価の支払いの場面で消費税を負担していますが、定期的な国への申告によって消費税を納める立場にないので、消費者にとってはインボイスの有無は問題になりません。

消費税の納税者はあくまで法人もしくは個人事業主という事業者である点は理解しておきましょう。一般のサラリーマンであれば、事業者ではなく消費者の立場にしか立ちませんので、インボイス制度導入の影響もほぼないといえます。

 

インボイス制度のスケジュールや経過措置について

インボイス制度は、2023年10月1日より開始予定となっています。

しかし一定期間は、インボイスがなくても一定割合を仕入税額控除可能とする経過措置も設けられます。

インボイス制度における経過措置

インボイス発行事業者になって適格請求書を発行するには申請その他の準備が必要であり、制度開始までに全ての事業者の準備が万全になるとは限りません。

よって、インボイス制度導入と同時に、インボイス発行事業者以外に対して仕入等で支払った消費税額を控除できず、事業者の金銭負担が一気に増えてしまう事態も想定されます。

そこで、インボイス制度導入後6年間は、インボイスがなくても支払った消費税額につき一定割合で控除可能とし、少しでも事業者へのダメージを軽減する工夫である経過措置が導入される予定となっています。

具体的な経過措置の期間と、インボイス(適格請求書)でなくても仕入税額控除できる割合は以下のとおりです。

2023年10月1日から2026年9月30日まで 適格請求書以外で消費税を支払った場合でも支払った消費税額の80%を控除可能
2026年10月1日から2029年9月30日まで 適格請求書以外で消費税を支払った場合でも支払った消費税額の50%を控除可能
2029年10月1日から 適格請求書がないと全額控除不可

インボイス制度の延期や廃止はありえる?

インボイス制度導入によって、商品やサービスを売る側の売手事業者は、多くの場合にインボイス発行事業者への登録申請、インボイスの発行及び保存が要求されるようになるでしょう。

買手側の事業者が消費税課税事業者である場合は、インボイスの受取及び保存の必要性、インボイスによる支払いとインボイス以外による支払いを区別する経理の手間が発生します。

特に今まで免税事業者であった個人事業主やフリーランスの方は、死活問題といえるほどの負担増加が予想されるため、インボイス制度の導入には反対の声がやみません。

しかし、消費税制がある限り、インボイスを発行保管させる制度には、事業者に正確な消費税額の受け渡しをさせる効果と意味があります。

何より、免税事業者をなるべく課税事業者に転換させて益税状態を減らし、国の消費税収を増やすのが真の狙いであると言われるインボイス制度を、廃止する決定を政府がするとは考えにくいです。

とはいえ、事業者に一定の負担をかける点は間違いありませんので、2023年10月までに社会情勢や経済情勢の想定外の悪化があれば、制度導入時期が延期される可能性も考えられます。

 

インボイス制度による影響や対応について

インボイス制度により、基本的に事業者は皆何かしらの影響を受けます。

自身が免税事業者で消費税納税義務がないとしても、事業者である限りサービスや商品を提供する売手として買手の課税事業者との取引があるのが通常であり、インボイス発行と無関係ではいられないからです。

以下、免税事業者と課税事業者に分けて、インボイス制度によって考えられる影響や、インボイス制度導入にあたってどう対応していくべきかの一例を紹介します。

免税事業者への影響と考えられる対応

フリーランスや個人事業主の大部分は零細事業者であり、一年間の売上が1,000万円以下の免税事業者です。もちろん、免税事業者である小さな法人も沢山存在します。

免税事業者のままではインボイスを発行できませんので、制度変更により次のような影響が予想されます。

免税事業者を続けるかどうかの二択

免税事業者を続けると、インボイスが無いため消費税額一定割合について控除ができなくなって実質的に負担が増える取引先から報酬の減額を要求されたり、同業のほかのインボイス発行事業者に仕事を奪われたりする恐れがあります。

課税事業者に変更したうえでインボイス発行事業者になると、インボイスを発行保管する手間や経理負担が増え、消費税を納める分程度の手取り収入が減少します。

インボイス制度開始への対応を単純化すると、「①免税事業者として益税と消費税計算をしなくてよいメリットを受け続け、報酬の減額を要求されるリスクと仕事を奪われるリスクを負う対応」と「②発行事業者となり手間は増え確実に手取り収入は減るが、仕事は変わらずに続けられる対応」の二択となるでしょう。

ケースバイケースで負担が少ない対応を

各事業者の置かれた立場や業界によって、最も負担が少ない対応は変わります。事情によってはどう転んでも苦しくなる状況も予想され、同業者の動向に注意しつつ慎重に対応を検討していくほかありません。

インボイスがなくとも80%は控除可能である最初の3年間については、取引先の負担は少なめですので、3年間くらい様子をみながら免税事業者を続ける選択肢も考えられます。

課税事業者である法人相手の仕事が大部分である業界においては、最終的には課税事業者となってインボイス発行事業者にならざるを得ないでしょう。

課税事業者への影響と考えるべき対応

売上が1,000万円以上あるなどの理由で課税事業者であった法人や個人事業主は、もともと消費税の計算や申告をしており、インボイス発行事業者となる負担は少ないです。

普通に税務署への登録申請を行い、インボイス発行事業者となる事業者が大多数でしょう。どの会計ソフトやサービスもインボイス制度への対応を準備していますし、経理、会計や事務はそこまで混乱しないと予想されます。

売手の免税事業者への対応に注意

一方、インボイス制度開始後に課税事業者が買手の立場で売手の免税事業者と取引をする場合にどう対応していくかという、慎重に考えるべき問題も発生します。

免税事業者と今までと同様に取引を続けた場合に消費税控除額の制限により買手課税事業者の金銭負担が増えるのは避けたいため、報酬を下げるか免税事業者にインボイス発行事業者になってもらいたいところです。

しかし、買手が優位だからといって、一方的に買手に都合のいい報酬額への変更を強要したりするのは、独占禁止法による「優越的な地位の濫用」として禁止されています。

一方的な値下げ要求や、免税事業者がインボイス発行事業者への登録要請を断ったことを理由とする完全な取引停止をしてしまうと、独占禁止法に違反する恐れがあるのです。

もっとも、「インボイス制度開始によって免税事業者との取引において買手の負担の増加を理由に、売手である免税事業者に対して取引条件の見直しを行ってよい」との回答の公正取引委員会が公表しているQ&Aもあり、話し合いで双方納得のうえ報酬を引き下げるのは問題ありません。

参照:公正取引委員会Webサイト(免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQ&A)
https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/invoice_qanda.html

なるべく早くインボイス発行事業者になってほしい旨を伝えて、登録申請してもらうように努めたり、話し合いで無理のない範囲での値下げを交渉したりといった工夫をしながら、今まで取引のあった売手の免税事業者との付き合い方を再考する必要があるでしょう。

この記事を書いたライター

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